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健康保険で医療を受けるのが当たり前のわが国で、「混合診療」に関する問題の報道が最近続けてありましたが、読者の皆さまはどう思われたでしょうか。

「健康保険で治療してきた患者が、保険で認められていない治療を併用するいわゆる混合診療を受けると、それまで保険がきいていた治療まですべて自費で支払わなくてはならない」というのが「混合診療の保険適用を禁止する」わが国の制度なのです。これを不合理であるとして訴訟に持ちこまれたケースについて、東京地裁は「厚生労働省の健康保険法の解釈は誤り」であり、「混合診療の原則禁止は違法」として、「保険適用を認める」初の判断をくだし注目されています。

これまでの私が経験した混合診療に関する最大の問題は、1990年から1992年頃の腹腔鏡下胆嚢摘出術が導入された初期段階で、「腹腔鏡下胆嚢摘出術は保険で認められた術式ではないので、この手術を受けた患者さんの医療費を全額返還せよ」という命令が各病院に出たことです。これによって先進的なことをやって患者さんに喜ばれていた病院は、医療費の全額返還命令が出て震撼させられました。あの時思ったのは、もしこの手術が保険適応にならないなら、手術代だけ保険請求しないで自由診療でお金をいただけばよいではないか、ということでした。しかし、それは「混合診療」になり許されることではないと言われ、釈然としないものを感じました。

混合診療の禁止規定があるため、たとえば保険外の新薬を使いたいと思った場合、本来なら保険が利く検査費や入院費を含めて全額が自己負担となるので、大変大きな負担を強いられることになります。

このようなことはあらゆる面に及んでおり、今回の訴訟を起こされた方の心境は私としては理解できるものです。混合診療の解禁は、患者さんにとって比較的低い負担で治療法の選択を広げることができるようになるため、評価できるものと思うのですが、いろいろ反論があるようです。

厚生労働省は全面的に争う構えのようです。国は「健康保険は安全性や有効性、普及性の水準が保証された医療に適用され、併用は一体の医療行為とみるべきで、保険診療に当たらない」との立場をとっています。

混合診療については「医師と患者に治療の選択を任せるべきだ」との意見と、「安全を保証できない治療まで行われる」などの反対論があります。日本は戦後、国民皆保険というだれもが良質な医療を受けられる体制を目指し、世界に誇る長寿を実現し、乳幼児死亡率の低下にも成功し、国連からも世界一の医療と絶讃されています。しかしながら、国民の生活レベルが向上した結果、健康に対する意識が強くなり、医療に対するニーズは多様化し、公的保険診療だけでまかない切れなくなっているのも現実です。

今回の判決ですぐに混合診療が解禁となるわけではないでしょうが、これを機会に混合診療の是非と在り方について全国民が改めて議論に参加すべきです。ちなみに、大手新聞の社説をみますと、一様に厚生労働省の対応を非難しているようです。

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加納宣康 昭和24年8月4日岐阜県生まれ。現在、亀田総合病院特命院長補佐、主任外科部長、内視鏡下手術センター長、マハトマ・ガンジー・メモリアル医科大学名誉客員教授、帝京大学医学部外科学客員教授

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

07年11月19日 10,070
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